「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(村上春樹)

人と人のわかりあえなさ、生きていくことのとりとめなさ、物事のとらえがたさ、そういった空虚なことばかりを僕は村上春樹から学んだような気がします。でもそれは、あそうか世界とこういう具合に関わればいいのだ、というなんか後ろ向きなようですがかなり根源的な姿勢を教えられることでもあったのです。
その村上ワールドの中でもやはりこの小説が一番。センチメンタルな物語に沈み込むもよし、自我の意味、自閉の意味を追求するもよし。読みながら無人島にいることを忘れ、読み終えて無人島にいることに救いを見いだすかもしれません。
書かれたのは1980年代の半ば。青年のころから世の中が具体的にも抽象的にもうまく把握できず黙って時代を過ごしてきた僕が、音楽とか小説とか映画とかにようやく味わいといったようなものを見いだせるようになった時期です。
そういう特殊性を差し引いても、村上春樹は語ることの多い作家です。彼の小説は日本文学史というか文壇史にちゃんとした席を与えられない一方、消費社会のバックグラウンドブンガクとでも言えそうな雰囲気が膨大な売れ行きにつながったせいか、ハスミセンセイ(@東大)一派からも「陳腐なイメージをなぞっただけの作品」と相手にされません。不遇です。
でも僕は村上小説の持つ確かさを一度も疑ったことはありません。それを検証していくことが、1980年代に僕たちが見いだした、気分…といえば気分ですがやはりそれも実はある種の哲学のようなもの、を見極めていくことだと信じています。『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』


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