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▼日誌
    路地に迷う自転車のごとく

迷宮旅行社・目次

これ以後


2002.2.27 -- 沈没した不審船を歌っているわけではない --

元ちとせワダツミの木』をずっと聴いている。海外進出という話も出てきた。なんだか自分が誉められた気分になるのは何故だろう。自分が誉められた気分になるのは正当なんだろうか。あれこれ考える。米レコード会社と契約した宇多田ヒカルが同時に思い起こされる。こちらも日本が誉められたような気分で、なんとなく応援。●元ちとせと宇多田ヒカル。どちらが世界標準か。いやそんなことはどうでもよろしい。あるいはそんな問いは正当でない。それより気になるのは「日本標準」ということだ。すなわち、どちらが私の歌なのか。いや、そのような気分こそもっと不当なのか。だとしたら、どういう点で不当なのか。これを機にゆっくり考えてみよう。冬季五輪は終了しワールドカップにはまだ時間がある。

●毎度のリンクだが、この際こちらのコラムも参考に。フローラン・ダバディ『「タンポポの国」の中の私』


2002.2.25 -- 金相場 --

●メダル収益を目指した企業どうしの談合ビジネス競争のようだったソルトレーク五輪が終わる。もはや愛国心などインセンティブたりえず、そのような牧歌的な応援も実ははなっから邪魔者だったらしい。その熾烈で寒々しい事実が次第に明らかになっていったのは、たいへん良いことだと思う。しかし、代わりに意識の表に出てきたものが、社員の業績のみを重視した給与体系と褒賞制度。うかうかしてたら机も肩書きもポイっとリストラだ。


2002.2.24 -- 上質紙的ブルジョア --

斎藤美奈子は、雑誌『SIGHT』(渋谷陽一編集長)で「教科書が教えない国語」という連載をしているようだ。2001年10月号(注)では、最近の国語教科書では意外にも椎名誠あたりが重宝されているという実状を取り上げている。かつて気ままでヤンチャだった男が、いつのまにやら分別臭く人の道・国の道など説く。教科書を正調に飾った椎名誠のその文章は、そうした変遷のあまりにあまりな好例と読めるのだ。それを斎藤美奈子は得意のシニカルさに加え、今回はいささか無常観も漂わせつつ指摘する。●しかしである。同号の目玉インタビューはエリック・クラプトンに北野武なのだが、こうした人物が、おもえば立派な装丁と紙質のページで人生や家族を大仰に長々と語るとき、なんだか同じ無常観に襲われないだろうか。●意地悪く言うなら、だいたい渋谷陽一は『SIGHT』で何をやりたいのか。2万も3万もかかる極上温泉旅館を特集したりして。たしかにそういうものを愛でられる勝ち組中年上がりコースを進みたいのはやまやまだ。しかし、実際そんな所にほいほい泊まりに行けるためには、まあ過労死するまで働くか、他人を騙して働くかくらいしかない。あるいは、そう、外務省だの国税庁だのの横柄天下りコースに、貴族階級の矜持と生活費をかけて、あるいは国家の矜持と生活費(税金)をかけてガムシャラにしがみつくか。・・・天誅。ダンチュー。●注:以前「今号では」と書きましたが、誤り、謝り。そんな古いのをいつまでも置いておくスーパーの雑誌ラックが悪いということで、ひとつ。


2002.2.23 -- これは一大事 --

●この番組まだあったのかという感じのシオノギ「ミュージック・フェア」が夕方6時というへんな時間に始まった。まあそれはどうでもいいのだが、きょう登場した「(はじめ)ちとせ」という新人歌手に、びっくり仰天してしまった。奄美民謡大賞というのを最年少で受賞した人らしい。●その公式サイト。●番組で歌ったメジャーデビュー曲「ワダツミの木」は、こちらで一部試聴できる。データの有料ダウンロードもできるようなので、ぜひにと思ったが、残念ながらマックは未対応。●でもこんど新宿のレコードショップに出現するという。しかし大勢殺到しそうだ。


2002.2.22 -- 今年は批評が流行るのか --

●その『重力』、読む。目下気になる話題がぽんぽん出てくる、明かされる。やめられない。しかもホントの肉声で聞こえてくる。●それにしても鎌田哲哉、まるで新撰組の辻斬りだ。片や大杉重男は手裏剣の名人。その実江戸城勤務の隠密剣士だったりして。●いまや小説より批評がずっとファッショナブル! かどうかはわからない。しかし、小説も作家同士がたまにはこれくらいの肉弾戦または漫才をやってくれたなら、客だって喜んで群がるはずだ(本屋や書籍に)。この前の「詩のボクシング」なんかがそうだったのかもしれないが。●スガ「蓮實さんにこの前五年ぶりぐらいであいましたが、非常にいいですね。お互いに(笑)。あっちがブルジョアで、こっちがルンペンで、てんぷら定食を割り勘にしちゃう。」●いやホントは批評の世界なんて全然知らないのだ。でも、そんなことを言ったら自民党のことだって外務省のことだって鈴木宗男のことだって、ついこの間までは全く知らなかったのだ。でもこんなに楽しめる。それと同じ。


2002.2.21 -- 文弱から格闘技へ --

●鎌田哲哉らが創刊した『重力』。まだ買ってないが、これやっぱり喧嘩雑誌だ。サイトの掲示板で早くもバトル。さっそく書き込んできた読者に、いきなり「真の問題はあなたの心の狭さにある」「・・・なら買わなくて構わない」と鎌田自身が往復ビンタ。●ちなみにこの雑誌の兄貴分とも言えそうな『早稲田文学』も、毎度毎度、血みどろ闘犬エンターテインメントを繰り広げている。そのくせ編集室ときたら、なぜか唐突に水漏れがあったらしくて、妙にのんき。そんなこんなで、『重力』と『早稲田文学』が、ふと村の寄り合いのてんやわんやにも感じられて、それは皮肉でなく素晴らしい。●雑誌や掲示板とは、喧嘩こそが華なのかもしれない。今どき大勢が集中して読みに集まるイベントなど他にない。なんだか知らないけどあまりに執拗なその怒りと不機嫌は、一体どこから生じているのだ。それはオレのこの怒りともシンクロしてくれているんじゃなかろうか。そんな期待をこっそり込めて。●宗男の4500万円より野上の8500万円のほうがもっと悪質なんじゃないのか馬鹿野郎! 便乗して喧嘩腰。


2002.2.19 -- ワトソンとクリックというか、単なるクリックというか --

●ドーキンスの説が裏付けられた。ミームの正体


2002.2.16 -- エスノセントレークシティー五輪 --

フィギアスケート金銀判定覆る! う〜む、私的にはどうも盛り上がりに欠けた今回の冬季五輪、ついに金メダルのニュースが2倍速で飛び込んで来たかという感じである。わくわく。アサヒコムの見出しも「糞アメ公の抗議が通った!!!」(02/16 04:59)と興奮ぎみ。・・・・・いや違った、これは2ちゃんねるのスレッドでした(アサヒコムは「カナダのペアにも金メダル」)。

●当然、シドニー五輪の柔道篠原の一件を思い出すわけで、その2ちゃんねるでも「篠原にも金やれ。清水にも金やれ」(02/16 05:00)の声がすぐ続く。「アメリカの圧力は五輪の順位さえ替えられる。もう五輪に興味が無くなったな」(02/16 05:28)との声もあがる。今回の判定をめぐっては、銀だったカナダペアをどう処遇すべきかのネット投票がオリンピックの公式ページで堂々と実施され、またニューヨークタイムズはどの審査員がどう採点したかを顔写真付きで報道したという。こうした展開に対して、そのアメリカ的な公平さがどことなく不公平であり、いっぺんその審問自体を審問したいというような気分が、こうした書き込みに現われたのだろう。2ちゃんねるを満たしていくこれらの本音は、もはや「サイレントでないマジョリティ」を形成する。「今ラディンが何かやっても同情できない気分だ」(02/16 05:28)。揚げ句には「韓国ごときになめられて内政干渉されっぱなしの日本人としては正直うらやましい」(02/16 05:09)?。

●ワレワレは民主的な手続きで「金銀判定」「正義の白黒」をつけマシタ。自信満々・鼻高々(レイシズム?)デス----という価値のグロスタは、いま広く世界を覆っているのだろうか。でも低能で曖昧な私としては、そういう白い旗や黒い旗をさっと挙げることはできないのだった。つい間違って、白地に赤の旗を振ってしまいそうになるのも、こういう時なのだった。


2002.2.12 -- 思わず地図帳を開く --

●マダガスカルに滞在中の友人からメールが届いた。想像するかぎりまさに地の果ての楽園だ。ところがこの島では今、大統領選挙が混乱の真っ最中らしい。政情不安が広がって国際線はもう2週間飛んでいないのだと言う。しかしそんなニュースまったく伝わってこないではないか。あちこちの報道サイトで「マダガスカル」の記事検索をしてみたが、みごとに一件もなし。まいいか、遠いから。●そしたら今度は、消息不明に近かった別の友人からもメール。こちらはコートジボワール(象牙海岸)の首都アビジャンから。この国名もニュース検索ではおそろしく引っ掛からない。私の頭にも引っ掛からない。なんでもアルジェリア〜ニジエール〜ブルキナファソとサハラを縦断し、このあとダカールを目指すのだとか。動けず留まるマダガスカルが天国の倦怠なら、サハラの彷徨なんて地獄の躁鬱。いやそのような世界などホントは実在してないんじゃないか、とか『ゴヂラ』みたいなことを思う。 ●そうだ、もうお一方。わが家主夫人が先日パラグアイの農家を目指して旅立ったのだった。こういう冒険人物だが、たしかもう60代後半。パラグアイはウルグアイではない。腹具合とも別種。

●このところ更新が多いのは、面白本が多かったせいだ。斎藤美奈子『モダンガール論』。次は『文章読本さん江』(筑摩書房)も読もう。


2002.2.11 -- 速読術の人が読んだら、どんな具合? --

●『いつか王子駅で』(堀江敏幸)これを読んで、都電に乗りたくなったり、競馬に行きたくなったら、たぶん文学的に正しい。しかし、そういう中身には触れない感想


2002.2.10 -- 詩のトランスクリティーク --

詩のボクシング(NHKで放映)。チャンピオン島田雅彦がサンプラザ中野をくだしてタイトル初防衛。島田雅彦すごい。小説よりすごい。最終ラウンドは、その場で与えられた言葉を使った「即興詩」の対決。島田雅彦は、どんな言葉を当てはめても成り立つような詩をあらかじめ準備していた。それは「私が訪れたある国では○○が貨幣として流通していた」というもの。リング上で示された言葉は「聖書」。したがって島田の即興詩の世界では、聖書が貨幣として流通した! 言葉があらゆるものと交換可能であることを踏まえた作戦であり、この詩の内容も朗読もまさにその交換の実践であったと、すかさず解説をした高橋源一郎も、脱帽の様子。次は自ら挑戦かな?


2002.2.6 -- とぼけたアート --

在日のアイデンティティということでちょっと追加。「GO」ともからめて。

森村泰昌のNHK人間講座がスタートしたのを、たまたま見た。タイトルは「超・美術鑑賞術」。森村作品はトリッキーで変態的とも言えるのに、話しぶりは純真。そしてとぼけた印象。それになにより分かりやすい。著書『踏みはずす美術史』(講談社現代新書)そのままの語り口で、好感度ますます上昇。●森村泰昌「超・美術鑑賞術」

●とぼけた印象で思い出した。横浜トリエンナーレでディレクターの一人でもあった建畠晢(たてはたあきら)をBBS経由で知り、その個人サイトに行ってみたところ、なぜか回文の実践日記といったページがあって、これがまた感動的なほど、とぼけていた。●建畠晢の回文ページ

●その建畠晢『現代アート入門』(平凡社・98年)という本を小林康夫と一緒に編集している。この手の入門書は、どうせ分からないものを分からないように解説するだけだろうからと、始めからあまり期待しないものだが、これは、けっこう、分かる。●「はじめに」を建畠晢が書いている。腰が低く、されど志は高い、そんな文章だと感じた。とぼけてはいなかった。●この書では、現代アートの歴史に残る傑作から日本にあってアクセスしやすいものを選んだという。取り上げた作家は18人。イブ・クライン、アンディ・ウォーホル、アンゼルム・キーファー、ロイ・リキテンシュタイン、河原温、ナムジュン・パイク、などなど葬送たる、いや草々?違う、錚々たる、というか相変わらずのメンバーだと思うが、ちゃんと森村泰昌も加わっているのだった。

●さてもう一人の編者、小林康夫といえば『知の技法』でありNHK御用達でもあるが、この本では荒川修作「意味のメカニズム」という作品について書いていて、とても勉強になった。●小林は「アートが分かる・分からない」ということを考えるなかで、「意味とはどういう意味だ?」と問い「それは矢印である!」と答える。ある言葉Aを別の言葉Bに置き換えた場合、ふつう言葉Bが言葉Aの意味だろうと思うが、そうではなくて、意味とは、実体ではなく、むしろ言葉Aから言葉Bに向かう関係、つまり「→」というメカニズムなのかもしれないと発想するのだ。・・・待てよ、これはもしや私が『クラシック批評こてんぱん』を紹介したときの「曲がった赤い矢印」と符合するのか!というと、それはまだ分からない、が、なかなかやるね、小林クン。


2002.2.5 -- 評を生みだす本のシステム --

「心を生みだす脳のシステム」感想。


2002.2.3 -- 《我々が最も愛するのは、似ることを望めないものである》 --

リチャード・パワーズ『ガラテイア2.2』読了。もしも感想に困ったなら、こう切り出すがよい。《言ってみればこんな話だが、本当はそうじゃない》。これは物語が終盤の混乱に直面し、苦し紛れに呟かれた一言だ。(なんでもペルシャの寓話ではこれが伝統的な語り出しなのだとか)


2002.2.2 -- 空爆 --

●行定勲「GO」を見てきた。近所の映画館。超満員。巧みな作り。大ウケ、そして愛と苦悩。しかしこれは単なるテレビドラマだ。映画じゃない。映画じゃないのにキネマ旬報第1位とはこれいかに?●「GO」というより「GTO」か。「NGO」だったりして。●実は「贅沢な骨」(同監督)も前に見たが、笑ってしまった。おもしろいのではなく、ちゃんちゃらおかしくて。●じゃあお前にとって映画とは何だよ!テレビとどう違うんだ!-----すいません、うまく言えません。在日とは何か。それも思案中です。それでも、少なくともこの映画は、それら二つの問いに対しては、消去法で答えるための材料にしかならない。そう感じてしまった。年寄り?


2002.2.1 -- 脳死するほど面白い --

茂木健一郎「心を生みだす脳のシステム」(NHKブックス)


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