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だらだら話 4

  ギックリ腰
リーン・・・リーン
夜中に電話のベル。寝ぼけまなこで電話に出る。

    

「夜中にすみませんが、今主人がトイレに起きたとたんに、ぎっくり腰をおこしてしまって、うなっているのです。どうしたらいいでしょうか。」

「いつもレッスンの時に、こうしなさいって教えてあるでしょうに。」

「レッスンの時は、ぼおうっとしているので、覚えていないのです。教えて下さい。お願いします。」

    

「教えてください。」の声を聞くと、この教え魔は目がぱっちりひらくのです。よっしゃあ、と腕まくりをした感じで始めます。

まず一番。右を下にしてねかせなさい。体の力を抜いて両膝をまげて。痛くて曲がらなかったら、ほんの少しでいいから曲げさせてしばらくそのままに。だんだん膝を多くまげるようにしていきましょう。今晩は、もうそのまま眠れるようだったら、そっと寝かせてあげなさい。右を下にしたのは、心臓を圧迫しないためです。

    

二番目。明日の朝でも少しよくなっていたら、今度は上向きで寝られるかやってみます。それができるようなら、その姿勢で両膝を曲げてきて、両腕で出来るだけかかえこみます。無理をさせないように気をつけてね。少しずつ大きく抱え込んでくるようにします。これで、しばらく、じっとしているように。

    

三番目。抱えている腕を離して横か斜め下に伸ばし、両膝は軽く揃えたまま曲げてそっと横に倒します。ほんのちょっとから始めてください。しばらくそのままでいてから、反対の方向に倒します。

    

四番目。起き上がれるようになったら、坐って両膝を立てて又抱え込みます。これも少しずつ始めますが、だんだん深く抱えてきて、最後には、かかとがお尻につくように。とにかく、腰をのばします。壁にもたれるとひっくり返らない。よーく引きつける。

    

この一番目から四番目が出来るようになった時には、急場はしのげたということですから、あとは、その後の養生です。

二番目から四番目をちょいちょい繰り返してやってください。

その他、ヨガのクラスに出ているかたは、腰まわしとか、腰痛体操とかいろいろ思い出して、日常の生活の中に取り入れてください。

それから、膝も腰と深い関係が、あるので、膝伸ばしのことも言っておきましょう。

上向きに寝て脚を揃え、かかとをうんと突き出します。足の指が手前に来ますから、それをもっと手前に引っ張ってください。すると、膝の後ろに刺激が行きますので、それを意識して、そこをもっとのばします。膝の後ろが出来るだけ床に近づくように力を入れてください。つぎに、膝小僧を上から締めおろしてきます。出来ればこれを、息を吐きながらやって、息を吸う時にゆるめます。これをくりかえしてください。

    

その他では、腰痛に関する根本的な注意があります。

まず、ストレスです。ストレスと腰痛がどんなに密接な関係があるかということを、私の経験からお話しましょう。あれは未だヨガに入る前でしたから、52歳くらいの時でしょうか。

ブラジルへ三回目に行った時だと思います。出発の二日前くらいに、ぎっくり腰に見舞われ歩けなくなったのです。その頃は、ブラジルまでの飛行機の切符はまだ結構高かったので、キャンセルするのも勿体無いし、と途方にくれてしまいました。その頃の私は、よく腰を痛めていましたので、四条先生という上手な先生に、何かと言うとかかっていました。鍼灸の先生です。その先生に相談しましたら、「ああ、行きなさい。行きなさい。成田に行ったらもうなおるよ。」と言われました。この先生には、全幅の信頼を置いていましたので、這いながらでも行く事にしました。

主人が空港に電話して、車椅子を用意してもらう手配をしてくれました。変な主人だと思われるでしょうね。この愛すべき、変な夫はその内にだんだん全貌をあらわして来ることとおもいます。空港に着いたらVIP待遇です。車椅子で運ばれて、出入国手続きも特別にやってもらい、なんだか特別のエレベーターで、すいーっと機内へ、というあんばいです。

    

なかなかいいものでした。これなら、なんかの密輸入も簡単にできるな、とおもいました。

さいわい、満席じゃなかったのでしょう。私のために、四席並びのところが空けてあって、そこに、のうのうと寝そべって海を渡ったのです。

四条先生の見立てどおり、太平洋のまん中くらいでどんどん腰が楽になり、ロスに着いたときには、もうすっかりなおってしまっていました。でも、ロスの空港には、又、私用の車椅子が用意されているのです。

    

さあ困った。どうしよう。「もうなおっちゃったよう。」とも言えないし、結局、ロスの空港を出るまでは、まだ腰が痛いふりをして、なんとか脱出しました。タラップもすいすい降りられるのに、手すりにつかまって、よちよちと降りてみせました。

この頃の私は、ちょっと大変なことがありまして、ストレスが、ずいぶん溜まっていたのだと思います。私は外国へ出ると、気持ちがぱあっと開いて、日本でのことは全部忘れられるたちですので、こいううことになったわけです。

この例でも、腰痛とストレスとは大きな関係があるということが解っていただけるんじゃないでしょうか。腰痛になる時は、それなりの要因が身体のなかにあってなるのでしょうが、ストレスが、その潜んでいる要因を何層倍にもするのではないかと思います。腰痛の起こりやすいかたは、一つには気持ちを楽にもって、ストレスを溜めないようにするのが大切です。ストレスを溜めないというのも難しい事かもしれませんが、その点でもヨガがお役に立てるとおもいます。

私がヨガを始めてから、腰痛に悩まなくなったのも、けっして、肉体的な訓練だけではないはずです。ヨガを長年しているうちに、私の性質も不思議なほど変わりました。一番大きいのは、いろんなこだわりが少なくなったことです。こだわりの多さと、ストレスとは、まさに正比例します。すべてリラックスの賜物です。

    

私の若い友人の晃子さんは、ことばの感覚の優れた人で、造語の名人です。この人が最近すてきなことばを使ってくれました。「先生のキナガシ人生」というのです。

    

私は、和服の着流しかと思い、素敵な褒め言葉をもらったと喜んだのですが、彼女のいったのは、「来ながし人生」なのだそうです。向うから来たものに対して、逆らわないで適当に流したり、都合が良ければそれに乗っかったりするので、「来ながし人生」なんだそうです。

どちらにしても、「浮かれ雲」みたいで、私には過ぎた言葉ですが、有難く頂戴いたしました。

インドのナンディ先生は、ヨガは科学的にリラックスの方法を教えるものである。といわれています。

リラックスが良いとは解っていても、さて、それではリラックスを、というと、なかなか難しくて、どうしたらいいのか解らないんじゃないかとおもいます。その方法をやさしく教えて、しかも、それに科学的な裏付けがあるのがヨガである。というのがヨガの一つの説明なのです。「どんな裏づけがあるって?」といわれるのですか?それは長くなりますので、追々にぼちぼちとおはなししましょう。

ヨガの一つの説明と書きましたが、ヨガにはいろんな解釈があります。科学的なリラックスの方法というは、その中でも解りやすくて、私の好きな表現です。

    



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〈筆〉waikari bahchan=木村詩世